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8話 落ちて滑っていく心

Auteur: ニゲル
last update Dernière mise à jour: 2025-04-23 07:38:41

「食堂は……ここね」

学内を少し歩き、横長く鎮座する食堂まで辿り着く。昼時であるが土曜なので人はあまりいなさそうだ。

「あれあの人……」

私はちょうど今食堂に入ろうとした眼鏡をかけた青年に注目してしまう。どこかで見た記憶があり、頭の中を探ると彼が月曜に助けたあの青年だという情報が引っ張り上がってくる。

「ん? どうしたの高嶺? あの人見つめて……あっ、ほら。向こうの人も気づいたみたいだよ」

「あの……オレに何か用?」

私にガンを飛ばされ流石に気づき青年はこちらに話しかけてくる。しかし前に会った時私は変身していた。彼は私が誰かは分からず初対面の状態だ。

「あ〜えっとその……あっ! 配信!」

「配信……?」

「月曜にあったキュア配信に映ってたなーって」

「あぁあの襲われた時の……お恥ずかしい姿を」

変身しておらず配信も関係ないこの状況下で、歳下の私に対して丁寧に喋る。本当に律儀で礼儀正しい人なのだろう。

「いやいやそんな仕方ないですよあんな化け物相手じゃ……それよりこの大学の人だったんですね」

「いや……オレはここの大学の人じゃないよ」

「えっ……?」

「友人の健ってやつに会いに……」

「たけ兄に!?」

世界は狭いと言うが、なんと私が助けた彼は親友の波風ちゃんの親戚の友人だった。

「そうだけど……君は?」

「あっ、すみません。アタシはたけ兄の親戚の海原波風です」

「波風……そういえば健が親戚に女の子が居るって言っていたような……」

まさかの繋がりだ。あの時もう二度と会うことはないと思っていた人にこうして巡り会えた。

(あの時笑顔になれなかった理由……分かるかな……)

彼を助けた時のあの表情が今も忘れられていない。胸に残り続けモヤが脳に染み込み離れない。

「あのアタシ達今からお昼なんです。よければ一緒にどうですか? 高校の頃のたけ兄の話も聞きたいですし」

「あぁ別に大丈夫だよ。あいつなら面白い話無限にあるし」

そうして私達二人は新しい仲間を加え食堂の中に入り、食券機で券を購入しカウンターでチキンカツ定食を受け取り席に向かう。

「いただきます!」

早速私はチキンカツに齧り付く。サクッサクの衣に中からは肉汁が溢れ落ちる。肉は分厚くソースは甘い風味がありアツアツホカホカの白米がよく合う。

「相変わら
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    「ふぅ。今日も学校疲れたー!」 私は荷物を部屋に放り投げ、ベッドにダイブする。橙色に包まれた部屋に、このふかふかのベッド。やはり安心する。 今日の疲れもあって私はうとうととしてしまい、眠りへと誘われる。 「おーい。昼に俺に家に来いってテレパシーで呼んだの忘れてるのか? 居るぞー」 横になった私の頭を、兎の妖精キュアリンがつんつんと突く。 「もう流石に寝ないって。疲れたからベッドに飛び込みたかっただけ」 「本当か? お前は単純な所があるからな。まぁそこが良い所でもあるけど」 彼はキュアリン。"彼"という通り可愛らしい見た目の反面性別は男性であり、キュアリンという名前も日本のセンスに合わせれば「大地」という名前のようになるらしい。 彼らはキュア星という遠く離れた惑星から来た宇宙人で、地球に来て調べてる際にその時期に偶然出現したイクテュスに対抗する策としてキュアヒーローの変身道具を使ったらしい。 とはいえキュアヒーローは一定範囲内に居る同族の希望を集めて力に変える装置。地球においてキュア星人にはガラクタ当然だった。 「単純って……でもそんな私にこれを渡したのはキュアリンでしょ?」 キュアヒーローが現れ配信が始まってから半年程経過した頃、一ヶ月前に私はこのブローチをキュアリンに渡されたのだ。 その日から私はキュアヒーローとなり、ノーブルに助けてもらいながらも頑張ってきた。肝心のもう一人のアナテマにはタイミングが悪く会えていないが。 「そうだな……それでテレパシーで言っていたキュアヒーローが探られてるって話は本当なのか?」 「うん。波風ちゃんの親戚の大学生が調べてるらしい。しかも色々設備とか先輩とかも巻き込んでやってるっぽい」

  • 高嶺に吹く波風   3話 正体バレ

    「良い動きだった。最近君の活躍はめざましいね。これは君のファンも中々できたんじゃないかな?」 ノーブルがこちらに駆け寄って来て賞賛の言葉を投げかけてくれる。 「いやいやそんなノーブルさ……」 「待て待て。わたし達は同列の仲間だ。序列なんて作りたくない。だからわたしのことは呼び捨てでってこの前言ったろう?」 「はい……!! でもノーブルにはまだまだ及ばないよ。こっちや先のことまで気を配ってて……目先のことしか見えてなかった私とは大違いだよ!」 「うん……そうだね……あ、それより一つ頼み事してもいいかな?」 表情から余裕の色が消え、申し訳なさそうにしながら頭を掻く。 「もうあんまり時間なくて、助けた人とか任せても良い?」 「うんもちろん! 今日もありがとね!」 ノーブルは一言こちらにお礼を言い足早に去っていきすぐに見えなくなる。 「えーっと、そこのお兄さん大丈夫だった? 怪我はない?」 戦いでよく見えなかったが、もし彼が動けない程の怪我をしていたら大変だ。私はすぐに彼の元まで向かい容態を確認する。 「け、怪我はないです……ありがとうございます」 青年は恐怖という鎖から解放され何事もなくスッと立ち上がる。だが表情は暗く笑顔が失われたままだ。 「待って!! えっとその……何か困っていることとか……あるの?」 キュアヒーローの使命はイクテュスを倒し"人々の笑顔を守る"ことだ。それなら私は後者の使命を果たせていない。 「いや何もない……です……その、ありがとうございました」 彼は壊れた自転車を用水路から引っ張り上げ、もう直せるはずもないそれを見て肩を落とす。 「あのっ……」 「あぁいやもういいよ。見た感じ高こ……中学生? 君は学校あるでしょ? ここからはヒーローがどうこうする問題じゃないから気にしないで」 「……はい」 実際壊れた自転車を直す術なんて持ち合わせていない。彼の悩みはそれだけじゃないように思えたが、深くは立ち入らせてくれなさそうだ。 (ヒーローの問題じゃない……か) 私は結局彼の笑顔を見ることなくこの場から去り学校への道に戻るのだった。 ☆☆☆ 「誰にも見られてない?」 「うんもちろん」 一限目の途中。テレパシーでコピー人形の私を学校の人目のない物陰に呼び出す。 「じゃ、おやすみね」

  • 高嶺に吹く波風   2話 水の力

    「反応はここら辺……あっ!!」 私は上空から落下しながらモンスターを探していると田んぼの用水路の近くに人と同じくらいの大きさの化け物を見つける。 赤く硬い鎧を纏った両手に大きな鋏を持ったザリガニだ。ただ肥大化したのではない。針のような足を地面に突き刺し二足歩行のフリをしている。 「あ……あ……」 奴の近くで眼鏡をかけた青年が腰を抜かしていて、乗っていたと思われる自転車がザリガニの近くに落ちており真っ二つにされている。 「その人から離れろっ!!」 私は手から圧縮した水をレーザーとして発射する。しかし奴の甲羅は硬く鉄をも貫くレーザーが弾かれてしまう。 「うっ……!!」 一旦レーザーを止める。出力を高めれば貫けるかもしれない。だがもしまた弾き返されてしまったらあの人にレーザーが当たってしまう可能性がある。 (あの人腰を抜かしてるし……助けようにも両手が塞がってたら私がやられちゃうしどうしたら……) 奴と私が互いに睨み合う硬直状態に入る。レーザーがダメなら最悪ステッキで殴ったりも考えたがあの甲羅には通用しないだろう。 「シャインアロー!!」 しかし背後から叫び声と共に光の矢が飛んでくる。それは甲羅を貫通し奴の肩に突き刺さる。 《来たー!! キュアノーブルだ!!》 《美少女王子様は今日も格好いいなぁ……》 《最推しきたぁぁ!!》 彼女が姿を現すと私の方の視聴者がその人、キュアノーブルに釘付けになる。 黄金に輝く髪を後ろで結び、衣装には宝石らしきものがいくつかついている。まるで中世の貴族が本から飛び出してきたみたいだ。 「君はそこの人を安全な場所に!」 「はい!」 光の力で戦う私の先輩キュアヒーローであるキュアノーブル。人気は一番であり私が変身したての頃にも助けてもらっている。 相変わらずのリーダーシップと頼り甲斐のある背中であり、私は指示に従って一般人の青年を避難させるべく肩を貸す。 「動ける?」 「は、はい……すみません……!!」 背中はノーブルに任せて安全な場所まで彼を運ぶ。かなり距離を取った後すぐさまノーブルの元まで戻る。 手伝った方が良いかもと思ったが流石は彼女だ。私が苦戦した相手に汗一つかかずに押している。 「トドメ……」 ノーブルは光を纏わせ鋭さを与えたステッキを振り上げる。しか

  • 高嶺に吹く波風   1話 キュアヒーロー

    「なぁなぁ先週のキュア配信見たか?」 「あぁキュアノーブルの? 相変わらず強かったよな〜」 私達の横を同学年の男子達が他愛のない話をしながら通過する。 「でもさ……キュアウォーターも良くなかったか? あの青い新人の子」 会話の中にある一つの単語に反応し、盗み聞くわけではないがより神経を耳に集中させてしまう。 「あぁあの子? 新人なのに気合い入っててすごいよな〜何より可愛いし」 (か、可愛いか……うへへへ) つい笑みが溢れてしまう。何を隠そうとこの私が今二人が話しているキュアウォーターなのだから。 「高嶺《たかね》? 何気持ち悪い顔してるの? あとボッーと歩かないで車に轢かれるわよ」 私の大親友である波風《なみか》ちゃんが横断歩道の前で肩を掴み止めてくれる。信号は赤になっており先程の男の子達は既に横断歩道を渡り終えていた。 「あっ、ごめん! ちょっと考え事してて……あはは……」 「アンタ最近ボーッとしてること多いわよ。何かあったの?」 「え……いや……何もないけどぉ?」 波風ちゃんは相変わらず勘が鋭い。それに対して私は嘘をつくのが下手で彼女から疑いの眼差しを現在進行形で向けられる。 「はぁ……別にいいわよ隠しても。でも何かあったらアタシを頼りなさいよ」 「あはは……そうなったらごめんね」 なんだかんだ言ってかれこれ十年以上の付き合いだ。お互い信頼し合っている。 [おい高嶺大変だ! またイクテュスが出た! しかもここから近い!] 私達が仲良く通学路を歩いている最中。無粋にも突然脳内に私だけにしか聞こえない声、テレパシーが届く。 [今!? 通学路に居るんだけど……それも友達と一緒に! どうしよう!?] 私は口を閉ざしたままテレパシー上で応答する。 [そこなら近くに公園がある! トイレに行くふりをしてコピー人形と成り代わるんだ!] (う、うぅ……ごめんね波風ちゃん。これも街を守るためだから!) 「い、いててて……ごめん波風ちゃん! お腹痛くなっちゃって。トイレ行ってくるから先に行ってて!」 私は近くの公園へと駆け出し波風ちゃんを置いていく。 「え? 高嶺!! 学校間に合うのそれ!? ちょっと!!」 こちらを呼び止めようとする彼女を無視し心の中で謝罪しながら公園へと駆け込む。 「ここなら誰も見てない

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